平田提さんはフリーランスの編集者・ライターです。学生時代は映画や創作のワークショップのサークルを主催したり、バンドでドラムを叩いたりとカルチャーへの造詣も深く、文化的なテーマを中心に取材されています。現在は生まれたばかりのお子さんと奥様との三人暮らしですが、新型コロナウイルスの感染拡大に影響を受け、リモートでの仕事が増えているとか。そんな平田さんは自身の半生を振り返り、「1999年以降、クリアしたゲームから抜けられないような感覚」だと言います。一体、どういうことなのでしょう? 2020年3月21日、日本政府が緊急事態宣言を発令する前に、お話しを伺いました。
平田提(Hirata Dai)
Web編集者・ライター・マーケター。秋田県生まれ、現在は関西在住。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。ベネッセコーポレーションでマーケティング・編集を6年、その後ゲーム会社等でWebディレクション・システム構築などを経験。カルチャーマガジンや健康サイトの編集長に。多くのクリエイターにインタビューを行う。至福の時間は「納豆ごはんを食べるとき」。
●平田さんのツイッター
@tonkatsu_fever
声のイントロ
生ぬるい歯医者の素手
―― 平田さんは定期的に、神戸から大阪まで電車で通ってらっしゃるそうですが、新型コロナウイルス、不安ですよね。
通勤や日常生活は気をつけてます。ただ、マスクが手に入らないですね……毎朝、近所のドラッグストアが張り紙を出すんですよ。
―― 張り紙ですか?
ええ、マスクの在庫があるかないかの張り紙です。電車に乗る前に、これを確認することが、新たな日課になりました。
実は今日が入荷日だったらしく……朝は出かけなかったので買いそびれました(笑)
―― なんと(笑)
近所の親御さんたちもマスクの話をしてます。「あの店にあるよ」とか。医療現場でも不足してるみたいですし、大変ですよね。
―― マスクといえば、こないだ歯科医にお話を伺ったのですが、「昭和の歯医者はマスクも手袋もしてなかった」と聞きまして。
へえ、そうなんですか?
―― その歯科医も「新型コロナをはじめ、様々な感染リスクがあるので、やりたくはないですが、いざとなったら私もそうします」と。
あ、いや……そういえば僕も、子どものころ、歯医者に素手で施術されたような……
―― 思い出が?
ええ、人の手の感触を……口の中で感じたというか、それがすごく嫌でした(笑)
―― となると、平田さんにとっての歯医者の怖さは、音とか機械の見た目だけじゃなくて……
まさぐられる感じもプラスされてますね(笑)その歯医者さん、タモリさんみたいな先生だったんですよ。
―― サングラスとオールバックの歯医者? クールなスタイル(笑)
そのわりに、手が生ぬるい感じで……(笑)
―― 今、ぼくの口にも悪寒が……(苦笑)新型コロナウイルスの影響は日増しに大きくなってて、どうやら東京オリンピックも延期されそうですよね。
五輪の開催自体にはいろんな疑問がありましたけど、こうなると選手の方たちが辛いだろうなあと。令和に入ってからの災害やコロナ禍のネガティブさを晴らすには、オリンピックも有効なのかなあとかも思いますよね。
―― ぼくは戦後しばらくたってから生まれていて、その後のバブル崩壊やいくつかの震災は直接的なダメージがなかったので、ここまで世界の成り立ちが揺さぶられるというか、先行きの見えない状態になるのは初めてで。
ああ……そうですね。ただ、僕は1995年、阪神大震災や社会的な事件が続いたとき、世紀末というのもあいまって、インパクトがあったんです。
1995
―― 1995年はお幾つだったんですか?
僕は12歳かな……小学校6年生。秋田にいました。
―― あ、兵庫じゃなかったんですね。
秋田生まれの秋田育ちです。ただ、祖父が兵庫の出で、震災のときはまだ家があったんです。震災で壊れてしまいました。
―― そうですか……ご家族に直接的な被害に遭われた方が。
テレビによく映りましたよね? 高速道路が倒れてる、国道の映像。
―― はい、よく覚えてます。
あれがショックだったというか……震災の2ヶ月後にオウムのサリン事件があって、余計に怖かったんです。怖かったなあ……。サリン事件は数日後にオウムが強制捜査を受けて、これも大々的に報道されて。
―― 混乱してましたよね。
日本史上に残るテロ事件と、戦後最大級の震災……祖父の家が壊れ、畳みかけられるようでした。
―― 1995年はカルチャーの分野にも世相を反映する作品がありましたよね。コミュニケーションに困難がある男性が主人公のテレビドラマがヒットしたり(TBS「愛してると言ってくれ」)、自閉気味の少年が急に闘うはめになるアニメ(新世紀エヴァンゲリオン)が始まったり。
そうなんですよ。僕、95年の作品でいうと「クロノ・トリガー」※が大好きで。その発売日が3月11日だったんです。

―― 日付まで覚えてるんですか?!
発売が待ち遠しかったので(笑)あのゲーム、世界が滅びるのを食いとめる内容で、当時やっぱり……ノストラダムスの予言※とかがあったじゃないですか。終末的なイメージというか。
※『ノストラダムスの大予言』:1973年、祥伝社が刊行した五島勉の著書。フランスの医師で占星術師だったノストラダムスの半生やエピソードと、彼の著書『予言集』(1555年)がまとめられている。この中で、著者が「1999年7の月、人類が滅亡する」とノストラダムスの言葉を紹介。世紀末の社会情勢が重なり、まとこしやかな予言としてブームになった。
―― なにもかも終わるみたいな雰囲気もありましたね。テレビで特番があったり。
神戸で震災が起きて、オウムのテロがあって教団に捜査が入って、さらにいうと……3月24日が僕の誕生日なんですけど、この日に祖父が亡くなったんです。
―― 95年の3月24日に?
そうなんです。
―― なんと……
祖父が秋田に来た当初、僕はあんまり仲がよくなかったんです。医師で、厳格だった祖父は、テレビ番組を相撲からアニメにも変えただけで怒ったりして……。最初は怖かった。
―― 孫を溺愛するような方ではなかったんですね。
もちろん怖いだけじゃなかったんですよ。全国をスケッチしながら旅したり、アクティブでお洒落が好きだったり、文化的な面もある祖父でした。
―― 平田さんに重なります。
暮らしているうちに、距離が縮まりました。でも、阪神・淡路の震災で自宅を失い、祖父はその影響も受けたのか、急激に悪くなって。
―― よりによって、平田さんの誕生日に亡くなるなんて……
亡くなったことも、自分の誕生日だったこともショックでした。しかも、最期に僕の名前を呼んだんですよ。
―― 最期とは……?
ベッドの上で……ですね。病院に運ばれて家族全員で看取って、呼吸器を外すとき、ずっと僕の名前を呼んでいて。そのまま亡くなりました。
―― いやぁ……忘れられないですね……きっと。声とか、眺めとか。
葬式の日、「クロノ・トリガー」をやってました。それも、すごく頭の中に残ってます。
ゲームをクリアした後のような現実感
1995年以降はずっともやもやしていて、映画が好きだったので、高校の時にサークルを立ち上げて脚本を書こうとしたけど、完成できなかった。大学時代も映画サークルで映画製作を続けたんですけど……それも日の目を見ず。30歳くらいのとき、友人たちと作ったZINE※のサークルで小説を書いたときに少しすっきりはしたんですけど。
※ZINE(ジン):手作りする雑誌や書籍。語源はmagazineやfanzine(ファン雑誌)に由来するという説も。
―― 作品で核心や時代を捉えるのは難しいですよね。
僕、もやもやがどこから来るのか、ずっと分からなかったんですよね。
―― 1995年の影響だと気づいていなかったんですか?
大人になるまでに、9.11のテロ(2001年)や東日本の大震災(2011年)……大事件はいくつもあったんです。でも、なんか……1999年を超えた辺りから、ゲームをクリアしたあとの世界っていうか……わかりますか? ドラクエVとか、クリアした後にオマケ要素で、プレイできる裏面があるじゃないですか。裏ボスを倒したり延々とアイテムを増やしたり。
―― ありますね。
あそこから出られない、すっきりしない感じというか……。もう果たすべき目的はなくなって、終わりがないというか。抽象的ですけど……あの感覚がずっとあったんです。もやもやした感覚。
遡ると、どうやら……1995年に始まりがあるんじゃないかと。だんだんと、そう思うようになりました。だから最初に書いた小説も1995年がテーマのものだったんです。
―― もやもやの発生は95年だと気づいたの、いつぐらいですか?
ええっと……就職して……20代の後半くらいには、思い当たってたんじゃないかなあ……。個人的にエヴァンゲリオンの感想を記録してたんですけど、ノートを読み返したら、東日本の震災くらいのときには同じことを書いてましたから。
―― どんな言葉が?
「エヴァンゲリオン」を見終わったり、「クロノ・トリガー」を遊び終わったりしたあとに感じる楽しさとか、やるせなさとか寂しさとか……ああいう感じがずっと消えない……みたいな内容でした。まさに「クロノ・トリガー」には「つよくてニューゲーム」ってシステムがあって、クリアした後にまた最初からやり直して、違うエンディングを何個も見れたり……「クリア後の世界」が楽しめるようで、クリアがないとも言えた。そういうループが続いているように錯覚していたのかもしれません。
―― 消えてしまったわけじゃないんですよね? 今も、そんな感覚やご自身が。
そう……ですね。無くなってないです。
―― 平田さんは、その……クリア後の世界に居残った気持ちのまま、大人になったのでしょうか。
そう……ですね。無くなってないです。
―― 無くなっていないけど、客観的に見る自分も出てきた。
だと思います。もし、クリア後の世界を生きてる自分だけだったら、相対化されないので。
―― 12歳くらいから30代手前まで……クリア後にしては、ずいぶん長いステージですね。
ほんと、そうですね(笑)
もやもやの原因
―― 1995年の何が、平田さんを捉えて離さないのでしょう。
そこですよね……妻が神戸の震災で被災しているんですが、彼女の体験を聞くと生々しくて凄いんです。僕は被災者じゃないし、事件の被害者でもない。だから……余計に分からないんです。
ただ……酒鬼薔薇事件※ってあったじゃないですか。
※神戸連続児童殺傷事件:発生は1997年。犯人は当時14歳だった。
―― はい。覚えてます。
僕は犯人と同じ世代なんです。あと、バスジャックしたネオ麦茶とか(西鉄バスジャック事件の犯人。犯行時は17歳)、秋葉原で通り魔事件を起こした加藤(犯行時は25歳)とかも。加藤の事件のときは僕は秋葉原に住んでいて、15分ほど前にあの現場にいたので、ニアミスをしている。
―― 15分前?!
ああいうインパクトの強い事件や人物が当時の自分に強く作用して、共感覚というか、傷になるというか……自分事のようになっていた気がします。「エヴァンゲリオン」の碇シンジ(主人公)にしても、放送が始まった時は、まさに同じ年でしたし。
―― 投影しやすいですね……
エヴァの「Q」※を劇場で観た時、「エヴァ」に搭乗するシンジとアスカ、レイ、マリといったキャラクターは14年間、歳を取ってなかったんですよ。現実世界では、あの時たぶん……20年近い時間が過ぎていたのに。
※ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q。劇場版の3作目で、公開は2012年。
―― 彼らは映画の中で、アニメ版と同じ性格と年齢で、前と同じようにエヴァに乗って、敵と闘ってましたね。
僕は、年齢的には、もう大人だった。でも、昔と変わらず敵と闘う彼らを見て、まるで自分を見せられているような……Qは、うまく大人になれなかった自分みたいな人間のための映画のような気がしました。
平田少年のガシャポン戦記
―― 平田さんはどんな子どもだったんですか?
わりと真面目でした。小学生のときも学校に通って勉強して、塾にも行って。ただ、心の中には漠然とした不吉な固まりみたいなものが……あったかな。
―― 小学生で……?
ダークサイドに行くのは、まだ早いですよね(笑)
―― ゲームでいうと裏面ですよね(笑)
小学校の終わりか中学に入ってすぐくらいで、太宰治を読み始めるんです。そこで更に暗くなりました(笑)
―― 太宰の毒(笑)
太宰が金木町(青森県金木村)で生まれて東大の仏文科に入って、最期に自殺するというストーリーが自分に入ってきちゃいまして……
僕も東北出身で大学は仏文科、まあ自殺はしてないですけど……
―― やめてください!
(笑)太宰も暗いだけじゃないというか、笑える作品とかいっぱいあるんですよね。あとになって気づきました。
そういえば「LOST」のテーマで、お話ししたいことがあるんです。
―― ぜひ、ぜひ。
ガシャポン戦士(SDガンダム)※ってあったじゃないですか。ガンダムの。
※ガシャポン戦士:ガンダムを模ったポリ塩化ビニル製のミニ・フィギュア。1985~93年、バンダイが製造した。デフォルメされたキャラクターの造形やサイズ感、ガチャガチャのギャンブル性が子どもに大受けし、ブームになった。通称「ガン消し」。

―― ガン消しですか? ぼくもよく遊びました。
小学校くらいのときにハマりまして。自分で武器を作り、改造して、闘わせたら記録して。
―― 記録まで?!
恥ずかしい話、高校時代まで続けてたんです。
※ヘンリー・ダーガー:50年以上をかけ、1万5000ページもの作品を描いたが、誰にも見せなかった。
―― 記録する対象は、ずっとガン消しですか? それとも別の玩具やフィギュアも加わりましたか?
ずっとガン消しです。お気に入りの7体がいたので、それ以上メインキャラを増やさず、7体が関わり合い、他の敵と戦ったり、世界の謎を探す物語を作るみたいなことをしてました。
―― 物語?
はじめは天下一武道会※みたいにトーナメントで闘わせたんです。そのうち、キャラが強くなり過ぎて、地球外の生命体みたいなものが現れて。
※天下一武道会:鳥山明のマンガ「ドラゴンボール」の劇中で開催される格闘技トーナメント
―― バトル物のセオリー(笑)
宿命です(笑)その後、いったん世界を解体して、エヴァとかクロノ、ナウシカ(風の谷のナウシカ)みたいな世界観を持ち込んで、ストーリーを作るようになりました。『X-MEN』とかでもそういう世界のシャッフルがあることを中学生ぐらいになって知って、勝手に親近感を感じてました。
―― ガン消し、原作ではパイロットに乗られるモビルスーツ(有人ロボット)ですが、平田さんの物語にパイロットは現れましたか?
僕が動かしていたガン消しは、パイロットに運転されているわけじゃなく、あくまで『ナウシカ』のように毒気から守るスーツを着ている設定でした。もともとの「●●ガンダム」とは別に、名前もつけていました。
でも、ある日突然、体が破れ、中からパイロットが出てきて、「すべては造られた存在だった」みたいな話を考えたりとか。これはほとんど『ナウシカ』なんですけど(笑)
―― 続きが気になります! ご自身でストーリー考えて、その記録を取るなんて……以前、ご一緒させていただいたカミロボの安居さんの取材、自分のことのようだったのでは?
本当にそうですね。ただ安居さんはみんなが共有できるデザイン力や工作力をお持ちで、カミロボは完成されたオリジナルのデザインですよね。僕は物語が頭の中にあるだけ、誰にも言えず、それも途中でプツンと無くなって。
―― 何故、途切れたんですか?
大学の時、秋田に帰省したら……ガン消しが無くなってたんです。
―― ご実家に置いてあったのですね。
無くなっても、頭の中で物語は続いてたんですが、今から7年……8年くらい前かな、パタッと終わったんです。
そのとき既に、秋田の実家は別の方に売却して、遊んでいた裏山は宅地開発でまっ平らな土地になってしまって、ガン消しのストーリーも失くした。喪失感がありました。
以前は頭の中でガン消したちを動かすときも、どこか手に持っているような感覚がありました。フィジカルな手がかりがなくなってしまったからですかね。
後ろにいる、もうひとりの私

―― そういえば、ガン消しストーリーの中で、平田さんは語り部だったんですか? もしくは、ご自身がガン消したちと関わり合うことも?
ガン消しが僕に復讐に来るような話もあったので……語り部だけじゃなかったですね。そうそう、ガン消し世界がパワーインフレを起こして、「運命」とか「宇宙」とかもはや概念みたいなものと戦い出して、彼らに倒すべき相手がいなくなったとき、「次の敵はなんだ?」と考えて。そしたら「すべてを操ってる奴がいるじゃないか」と。僕を倒しに来るんじゃないか、と。
……って、なんの話だって感じですけど(笑)
―― いや……終わらない1995年とか、エヴァQを観たときのお話しと、深いところでつながってる感じがしますよ。
なんか……虚構の中のものが、自分の生活にはみ出してくるような感覚が、大学生の頃にあったというか……
―― ガン消しが自分を倒しに来るのも、同じ時期ですよね。
ああいう人形遊びって、ストレス解消だったかもしれないし、ルーチンワークだったり……楽しくやっていたのだけど、とにかく僕にとっては現実だったんです。物語は目の前で展開しているし、実際に触れられるガン消しもあった。
それが、実家に戻ってガン消しが無くなったと気づいてから、世界が急にリアルじゃなくなった……フィクションになった気がするんです。
―― 現実が虚構に……ガン消しは、平田さんにとってのリアルとフィクションを媒介してたんでしょうか。
大澤真幸さんが『虚構の時代の果て』で1995年について書かれてますけど、オウムの麻原にしても、信者に「世界が終わる」とフィクションを信じ込ませ、現実を動かしたらしいんです。やっぱり……そういう時代だったのかな。エヴァにしても、そんな空気感を取り込んでいたというか。
―― 通じるところがありそうですね……ただ、平田さんは繋ぎ続けたストーリー(フィクション)を誰とも共有しなかったですよね。むしろ禁忌として内に秘めてらしたわけで、この点が、カルトを台頭させたり、そこに浸かって社会のルールに抵触することも厭わなくなった人とは大きく異なるような気がします。
僕の中では作品と世界がつながっていたんです。フィクションもリアルもなかった。そこが……うまく人にも話せなかったし、作品を個別に語ると「なんか違うな」というか……
―― 平田さんは自分をガン消しだと思ったこと、ないですか?
ガン消し?
―― いや……その、平田さんのお話しを伺っていたら、「自分もガン消しなのかな?」と感じ始めたというか……生きてる間に全身の五感が受け取る体感や世界観、記憶とかを総合するとリアリティになると思うんですけど、これって頭の中で感じてるものですよね。てことは物質や形ではなく、書き換えられる。つまりフィクションじゃないですか。このフィクションを生きる肉体……というか物質の「私」と、平田さんのストーリー世界に居た「ガン消し」と、なにが違うのかな、と。
なるほど。確かに僕はどこか……人生に起きる様々なことってが他人事のような感じがしてました。あとは……なんていうんですかね……僕はリアルを感じたい気持ちが強いんですけど、自分がプレイヤーになってる感じのときがあります。ゲームの主人公みたいな……自分のもう一つ後ろに、もう一人の自分がいる感覚。
―― それをレイヤーに分けると、平田さんはガン消しと同じ位置にいますね……
「クロノ・トリガー」の続編の「クロノ・クロス」って作品が、まさにそういう感じなんです。
主人公は実は本当の世界では死んでいて、自分がいた世界は生きのびたパラレルワールドであることが分かるんです。そして敵キャラに自分の姿を奪われてしまって、誰も自分を自分と信じてくれなかったりとか。どこか「自分」がアバター的で。
やっている当時から、自分の心情とシンクロする感じがありました。しかも「トリガー」で1999年の世界崩壊を食い止めたのに、「クロス」は「それ以外のあり得たかもしれない未来」が復讐してくるお話でした。「クロス」が発売されたのも1999年だったし。メタ的に自分の物語を解体し直す、っていうのや自分自身をフィクションとして捉えてる感じは、当時から続いているかもしれないです。
―― クリア後の感覚、これからも続きそうですか?
クロノの音楽を作られた光田康典さんに、仕事の場でお話が伺えたんですよ。
―― そうなんですか!
お会い出来てすごく嬉しかったし……ちょっとだけ終わった感じがしました。「クロノは、人の手によって作られた物だったんだ」と。当たり前なんですけど。
―― もしも鳥山明さんや庵野秀明さんなど、1995年に金字塔を打ちたてた方々に直接、これからもお話を聞いていったら……?
どうなるんでしょうね、僕は(笑)
アフタートーク

息子が生まれたから、ガン消しでひとり遊びしてる姿、見せられないんですけど(笑)
ああ、そうだ。今思ったんですけど、いつまでもクリアできない現実感で生きることになったのは、もしかすると……僕にとって現実とフィクションをつなぐツールであり戦友だったガン消したちが居なくなったからかもしれません。彼らの物語をクリアさせられてあげていないから。
(おわり)
ガン消しを「復活させようかと思ってる」とおっしゃっていた平田さん。
なんと2021年、ついに動きがあったようです……!!

平田さんのNOTE
https://note.com/tog_gle/n/ne21bc91cb29c