地元・東村山市でエステ店を経営する東美晴さん。自分らしい働き方を見つける十数年には数々の山場があり、客との距離感にも葛藤。シングルマザーである自分への哀れみも感じたそうです。そんな東さんのLOST体験は「閉店」と「独立」。話題が困難や難題に及んでも、溌剌とした声ぶりの変わらないインタビュー、後編をお届けします!
インタビュー前編:https://lost-intv.com/2020/02/876/
東美晴(Azuma Miharu)
IBA(現・Socieの専門学校)を卒業し、大手サロン「Socie」に入社。
退社後は本当に結果を出すサロンを探し求め素晴らしいサロンに出会いチーフとしてお店を任される。ドクターリセラと出会い沢山の方のお肌を「ノーファンデーション」に導く。2010年独立。美容歴20年。
2014年 シミ症例リセラプリンセス受賞
2017年 シミ症例プリンセス2名受賞
店舗HP/東村山久米川・大人の美肌塾『ル・シエル』
目次
声のイントロ
エステティシャンになる!

長い年月を経て、自分らしい店と、適切な客との距離感を見つけた東さん。エステティシャンを志したのはいつだったのか。
「高校時代は鍼灸の資格を取るつもりでした」
高校3年になり、専門学校の受験を考えた。しかし、鍼灸の専門学校の学費は高額だった。しかも、卒業まで最短で3年間。どうしたものか……東さんが進路に悩んでいると、知人から声がかかった。
「私の知り会いに、エステティシャンがいるよ」
東さんは紹介を頼み、会ってみた。すると、思いがけない話が聞けた。
専門学校を運営するのは大手のエステチェーンで、学生は卒業後、チェーン店に優先的に入社できるシステム。通学は1年間。しかも、サロンスタッフを介して入学すれば紹介割引が適応され、「学費が10万円も安くなるっていうので、いいじゃん!って思って決めちゃいました」と、東さんは笑う。
エステ学校に入学して
いざ入学すると、エステティシャンのきつさ、厳しさを思い知った。
「……ベッドにうつぶせになるんです。で、指を立たせるじゃないですか、ベッドの床に。そこを支点に体を上げ下げして……」
腕立て伏せならぬ、指立て伏せ。エステの施術は思った以上に力仕事で、指や腕の力が必要だった。学校のカリキュラムにも、筋力トレーニングが組み込まれていた。ついていけない生徒も多かったという。
「1学期が終わる頃には……結構な数の生徒がやめてましたね。クラスの半分くらいですかねぇ」
エステ店に入れたものの……
連日の筋トレもにめけず、エステの技術や知識を学び続けた東さん。1年後、思い描いた通り運営元のエステグループに入社。しかし、配属されたエステ店は、施術スタッフにもチケットや商品の販売ノルマがあった。
「当時はもう……むちゃくちゃ呑んでました! 働いてストレスが溜まって、呑んで、呑んで、また職場でストレスが溜まって、夜になったら呑んで……日々そんな感じ(笑)」
施術中、積極的なセールスは必須。施術やケアよりも、数字や売上が優先される局面もあったという。
「お客さまに施術してるじゃないですか? あのね……ドアが開くんですよ……ギィィ……って。隙間から、メモがそーっと差し込まれて……そこに『あと5万!』って書いてあるんです!(苦笑)」
施術している客に向け、オプションのサービスや商品を販売し、「あと5万円を売上げよ」という指示だ。当然、客が必要としないものまで売らなければならない。金払いのいい客はスタッフの間で争奪戦だったという。
東さんが理想とする美容と、かけ離れた環境 ―― それでも辛抱したのは、専門学校の学費を出してくれた母に「3年は辞めない」と誓ったからだ。東さんは約束を守り、3年間の勤めをまっとうし、退社を決めた。
重なり合った偶然
東さんは常連客の施術を担当すれば、退社の挨拶をした。ある日、ひとりの客にこう言われた。
「東さんさ? 花小金井駅※の近くにね、いいサロンがあるのよ。あなた、働いたら?」
※花小金井駅:東京都小平市にある駅。西武新宿線が停車する。
急な投げかけに、東さんは戸惑った。でも、なぜか興味が湧いた。帰宅後、客が投げかけた店舗を検索。個人サロンなのに施術メニューが豊富で、客との距離も近そうだった。
「いいなーと思ったので電話で面接をお願いしたら、たまたまスタッフを募集する直前で(笑)」
客の投げかけと理想的なサロン、しかも採用を検討し始めるタイミング ―― 偶然に偶然が重なり、東さんは転職を果たした。
オーナーはエステの老舗チェーン「たかの友梨」で店長を勤めた、ベテランのエステティシャンだった。施術のテクニックだけではなく、販売ノウハウや店舗マネージメント、顧客サービス、客一人ひとりに対する適切な施術プログラムなど、学ぶことが多かった。
東さんは結婚を機に、一度はこの店を辞めた。しかし離婚後、オーナーから「戻って来ない?」と誘われ、サロンに復帰。その後、いくつかの事情が重なり、東さんがひとりで店を切り盛りした。
「自分に合ったお店で、キレイになりたいと本気で思うお客さまが来てくれる。いま思い返しても、すごく楽しい時期でした」
オーナーからの信頼も篤かった。
「交換日記が日課だったんです。その日あったこと……いろんなことですね、なんでも書いて。時々、アドバイスをもらって、考え方を教わって、充実してました! 営業的にも『なんでも自由にやっていいよ』って感じで」
働きやすいサロン、前向きな客との健全な関係、尊敬できるオーナー。働くうえで最高の環境に学び、スキルや知識、経験値がどんどん上がった。離婚後、慌しかった生活も安定した。ようやく自分らしく暮らせるようになった ―― そう思った矢先。
東さんの生活をがらりと変える事件が起きた。
かつてない喪失感

「『お店、やめる』」って、オーナーが」
突然の通告だった。経済不況の煽りをくい、経営状態が悪化。潰れるほどではなかったが、オーナーは自身の生活の変化もあり、「閉店する」と言った。
「いまならオーナーの気持ちも、ちょっとは分かるんです。経営や家庭のこととか。でも当時は……ずっと一緒に働いてきたのに、こんなに簡単に切り捨てられるの?って……ショックでした」
実は、東さん。離婚後、すぐに復帰したわけではなかった。
「はじめはオーナーの誘いを断ってたんです。私は子どもが2人いて、暮らしていかなきゃならない。エステ業界って、不況に弱いので、急な倒産のリスクがつきまとうんです。だから、簡単には戻れませんでした」
離婚後の1年間、東さんは友人のサロンを手伝ったり、眼科に勤めたりした。
美容以外の勤めをしている間も、オーナーの呼びかけは続いた。つねに「うちは大丈夫よ!」の一点張り。たしかに経営は安定していて、顧客も多い。それだけの魅力があるサロンだと、誰よりも知っているのは東さんだった。
「絶対平気! うちは絶対に大丈夫だから!」
「そこまで言うなら……やってみよう」と、東さんは花小金井のサロンに戻ったのだ。こういった経緯があったから、突然の閉店通告が堪えた。
でも、子どもたちがいる。生活がある。迷ったり、悩んだりする時間はなかった。
落ち続けた面接
サロンの閉店日が近づくなか、東さんは事務の仕事などに片っ端から応募。面接を受けた。
履歴書を見た面接官が呟いた。
「お子さん、まだ小さいんですね……」
東さんは前のめりで答えた。
「母に預けます! 休みません!」
「エクセルはできますか?」
「できます!」
嘘だった。東さんはエクセルが使えなかった。でも、雇われたらガムシャラに学び、なんとしてでも働く覚悟だった。面接では担当者に心からやる気を伝えた。なかなか採用に至らず、ひとつ、またひとつ……不採用の報せが届いた。それでも諦めなかった。
「でね、ようやく内定をもらったんです! やっと働ける……これで私、大丈夫だ!って、もうね……嬉しくって……面接の場所が港区だったから東京タワーに登って、クレープも食べました(笑)」
いまにも飛び跳ねそうな調子で、東さんは当時の心境を振り返る。
「帰りなんて、もうルンルンですよ(笑)ほんとによかったなぁって!」
内定の話から2日後、電話があった。内定を受けた企業の担当者からだった。
「申し訳ありません。今回のご採用、取り消させてください」
「え? なぜですか?」と、東さんは聞いた。
担当者にも、東さんへの申し訳なさがあったのだろう。社外秘にあたる事情をこぼした。
「……他に内定した方がいます。その方には……お子さんがいません」
会社は、自己都合で休む可能性が少ない、より安全で確実な人材を選んでいた。東さんのショックは大きかった。
「こんだけ落とされて……ダメって言われて……私は世の中から必要とされてないの? どうしたらいいの?って、さすがにダメージが……」
離婚後に復帰し、尽くしたサロンは急に閉店。就職に奔走し、ようやく取り付けた内定もあっけなく取り消された。なにもかも失くし、胸に空いた穴に落ちたような感覚 ―― 東さんは目の前が見えなくなった。
客の投げかけ
「サロンが閉店になると知ったお客さまも、『ここ閉まってから、どうするの?』って聞かれるんです。いや、どうするって言われても……面接は落ちるし、内定は取り消されるし、『わからないんです』って答えるしかなくて……」
ある日、客にこう言われた。
「自分でやろうと思わないの?」
自分で……?
当時を振り返り、「独立なんて考えた事もなかった」と東さんは笑う。
「だって私、2番手のポジションが大好きなんです(笑)花小金井のサロンのオーナーはお客さまに尽くす人で、仕事もできて、心から尊敬していました。『一生、このサロンにいる!!』って思ってました。ずっと彼女を支えていたかった」
だから、「自分でやったら?」と言った客にも、間髪入れずに応えた。
「いやいや無理ですよ~」
「無理じゃないでしょ? ずっとエステティシャンしてきて、このお店だってさ、ここ2年ぐらい、あなたひとりでやってたじゃないの」
言われてみれば……その通りだ。店を切り盛りしていたのは自分だ。それにしても……あまりに唐突で……店をやる……? 自分で? 東さんは、どう受け取っていいか、よくわからなかった。
「そうは言っても……」
「やり方なんて、ぜんぶ分かってるでしょ!」
んー……独立……貯金はいくらあったか……どのような店を作り……どう経営するか……収支は合うのか……
「できるよ!」
客と話している間、すこし考えただけで、ぐんぐんイメージがひろがった。
「東さんなら大丈夫!」
どこでサロンを開くのか。どうやって物件を見つけ、なんの設備を入れる……? 取り扱う製品はあの会社のものにして……東さんのなかで何かが始まった。
「……できる!」と腑に落ちてからは早かった。
独立の意思をオーナーに伝え、3ヶ月後。自分の店を構えていた。
物件との巡り合わせ
独立を決め、たった3ケ月で自分のサロンをオープンした東さん。そこには「ミラクル!」と膝を打ちたくなる巡り合わせがあった。
サロンを開いたマンション
サロンをオープンすると決め、東さんは物件を探した。条件がいくつかあった。まず、ワンルームのマンションでトイレとバスが別であること。場所は地元・久米川(東京都東村山市)。駅から歩けるエリアがいい。検索すると、ぴったりの部屋が見つかった。しかし、問い合わせると話しが違った。
「すでに借りられてたんです。仕方ないから不動産屋さんに条件だけ伝えて、ほかの物件を探し始めました。でも、サロン営業は不可のマンションが多くて……」
難航する物件探し。かたや、退店の日は迫る。東さんは最低限の条件をクリアする部屋を見つけ、仮契約を済ませた。ただ、最初に検索した物件を忘れられずにいた。契約日になっても諦めがつかない。とてもじゃないけれど、不動産屋に直行する気分じゃない……
とはいっても、約束の時間が迫る。東さんは「もやもやした気持ち」で、わざと遠回りのコースを歩いた。道沿いに不動産屋があった。ダメ元で中に入り、担当者に開店の経緯や物件の条件を説明。「最初にピンと来た物件に、まだ惹かれている」と、吹っ切れない思いもありのまま伝えた。
「そしたらね、担当の人が『あのマンション? 昨日、ひとつ空きましたよ』って!」
すぐに見学した。思い描いた通りの部屋だった。仮契約を済ませた不動産屋には平謝りし、キャンセル。検索してすぐに見初めた部屋で開店できることになった。
みんなで暮らせる物件
一度だけなら奇跡かもしれないが、再び幸運に恵まれた場合、なんと形容すればいいのか。東さんの物件との巡り合わせは終わらなかった。
花小金井のサロンで働いているとき、東さんはマンションの購入を検討した。ちょうどいい中古物件が見つかり、ローンを申請。しかし、審査に通らなかった。そうこうしているうち、くだんの部屋をリフォーム会社が買い上げ、全面的に改装。価格が跳ね上がり、諦めるしかなかった。
それからも、住みやすそうなマンションを見つけては、内覧に行った。そうこうしているうち、実家のマンションの下の部屋が空き、「みんなで近くに住めるならいいね」とローン購入を申請。購入寸前まで進んだ。
しかし、これも暗転。会社員が同じ部屋の購入を希望し、不動産屋も「自営業者より収入が安定している」と考えた。東さんにしてみれば、横取りされた格好で、契約が流れてしまった。
マンションを探し始めて、約2年。「物件を調べてからじゃないと、寝れなくなりました(笑)」というほど、日課になった物件情報のチェックを続けていると、最初に気に入った物件 ―― ローンの審査に通らず、その後フルリフォームされたマンションの価格が、だいぶ下がっていることに気づいた。
東さんは友人の不動産関係者に見学を希望。1度は「おまえじゃ買えないから無理! 無駄!」と断られたものの、東さんは粘った。
「見せてもらうだけでいいから!って、どうにか連れてってもらいました(笑)そしたら、やっぱりキレイで……あと、不思議と『ここは私のためにある!』って感じがしたんです」
東さんはその場で友人に「私の希望額、一度オーナーさんに伝えてくれない?」と頼んだ。すると、オーナーから驚きの返事が届いた。
「提示された価格、前と同じだったんです。2年前の……リフォームされる前の値段」
不動産はリフォームから2年が経過すると値崩れするらしく、オーナーも収支がマイナスになる前に売りたかったとか。東さんの提案が絶好のタイミングだったのだ。
「結局、きれいになったマンションが買えちゃって……もってますよね、私」と東さんは笑う。
売らない。追わない。媚びない。
尽くした店が閉店になり、不安や焦り、喪失感に苛まれた東さん。客の投げかけや物件との巡り合わせなど、いくつもの出合い恵まれ、めでたく独立 ―― 2020年、開店から丸10年。美容歴はその倍を数えるまでになった。培った営業スタイルは独特だ。
東さんの営業スタイル
初回の客には体験メニューからコースを選んでもらい、その内容を施術するだけ。次回の予約やコースの購入は求めない。施術メニューや販売商品は、すべて自信を持って「効果がある」と言い切れるものばかりだが、セールストークも一切しない。
「初回はサロンや私の雰囲気を感じてもらえれば十分。お客さまも、信頼関係も何もない段階で、深い悩みを口にしたくないはずです。押し売りも嫌なので、初めてのお客さまにも、常連様にも、絶対にやりません」
それでも営業が成り立つのは、腕や知識が確かだからだろう。しかし、東さんがどれだけ正しく、効果的な施術をしようと、客自身が自宅でケアをしたり、購入した商品の使い方を守ったりしなければ、効果の程度は極めて小さくなる。
だから、東さんは客に「ご自身でケアしてくださいね」と念を押す。
肩や腰の凝りをほぐすと、リフトアップする顔
たとえば手荒れの予防として、食器洗いの洗剤についてアドバイスするなど、日常生活の改善点とケアの手法・注意点も詳しく伝える。
「いまの食器洗い用の洗剤って、油汚れは凄く落ちるんです。でも、油が落ちるということは、手が荒れます。とくに乾燥する冬はダメージが酷くなるんです」
ガサついた手で顔に触れたり、洗ったりする行為は、タワシを直接、肌に擦りつけるようなものらしい。
「お顔のケアには手の保湿やトリートメントが欠かせません。顔も、手も、体もつながっていますから」
顔の状態ひとつにしても、さまざまな器官や機能が関連する。より良く、確実な施術を行うには、全身について知らなければならないから、東さんは美容整体師や温活アドバイザー、健康管理士の資格も取得した。
「うちはフェイシャル(顔のケア)を中心にしてますが、体のエステも行います。肩や腰の凝りをほぐすだけで、顔がリフトアップしますよ」
「美肌塾」の由来
店名を「美肌塾」とした東さん。客にとっては「コーチのような存在でいたい」と話す。
「私がお客さまをきれいにするというより、改善方法を教えたいんです。たとえば顔の洗い方って学校で習わないですよね? でも、さっきも言ったように、大事なんですよー。顔の洗い方がじょうずになると、お肌の状態もよくなります!」
もう一つ、大事にしていることがある。正しい情報の伝達と、情報の使い方だ。
「美容に関する様々な情報が入り乱れています。ケアの仕方にしても、本来は一人づつ違うのですが、同じやり方で誰もが改善されるかのように語られる情報が多くて……
何が正しくて、その正しい情報をどのように実行すればいいかを、お客さまの状態に合わせて伝え、変化を見守りたいと思っています」
(おわり)
店舗情報

東村山久米川・大人の美肌塾『Le Ciel』 〜ル・シエル〜
所在地
189-0013 東京都東村山市栄町2丁目30−10 グローリーハイム白百合301
電話番号
042-309-6486(施術中はお電話に出られない可能性があります)
メール
lecieleciel@gmail.com
営業時間
9:30〜18:00(最終受付/16:00、金曜日のみ18:00)
交通アクセス
西武新宿線「久米川駅」南口より徒歩3分