職場

「美ラクル! 1」東美晴

東美晴さんはエステ店を経営するエステティシャン。キャリアは20年を超え、提携するエステグループ主催の大会で受賞するほどの腕前です。そんな東さんが「LOST」をキーワードに思い返した出来事は「閉店」、そして「独立」。大きな転機を挟み、身の回りに起きた偶然……というより、「ミラクル」を感じさせる出合いの数々が、ほがらかに語られるインタビュー、その前編! 最近あったトラブルや子育ての矜持、働き方をあらためた顛末がつまびらかに!

プロフィール

東美晴(Azuma Miharu)
IBA(現・Socieの専門学校)を卒業し、大手サロン「Socie」に入社。
退社後は本当に結果を出すサロンを探し求め素晴らしいサロンに出会いチーフとしてお店を任される。ドクターリセラと出会い沢山の方のお肌を「ノーファンデーション」に導く。2010年独立。美容歴20年。

2014年 シミ症例リセラプリンセス受賞
2017年 シミ症例プリンセス2名受賞

店舗HP/東村山久米川・大人の美肌塾『ル・シエル』


声のイントロ

 

突然の侵入者

ガッ! ガんっ……がッ!

時刻は夜の10時過ぎ。ガン……ガっ! 自宅にいた東さんは激しい物音に気づいた。ガッがッン……っ! こんな時間に何の音……? どこかで……殴られる、何が酷く殴られる音がする。ガん! ……がンガんガっ! ……テラス? ガッ!!ガッ、がっ、ガガン! ……やっぱりそうだ。マンションのテラスだ。東さんはカーテンを開けた。

「おっさんがいました(笑)」

見知らぬ男が夜闇に紛れ、テラスの柵を乱暴にゆすっていた。事態はさらに悪化した。おさまらない男が柵を乗り越え、敷地に入ってきたのだ。
「開けろ! こらッ! ぁけろっ!」
男は怒鳴り散らし、ガんガっ……! ドアを叩いてやめようとしない。
「開けろッ、オラ! おらぁッっ、開けろぉぉぉ」
叫び声が、夜の庭にとどろいた。

これは先日、実際に起きた出来事だ。

「30分くらいですかねぇ……うるさかったの。おっさん、警官に連れていかれたんですけど……(笑)そのあと、隣のおばあちゃんがウチに来て『叫び声がしたけど、どうしたの? 息子さん、暴れたの?』って声をかけてくれて(笑)」

隣室に住むお婆さん。ときどき、東さんの玄関先に野菜などを置いていく、人情味のある方らしい。

「年頃の息子がいるから、どちらかが叫んでたのかと、おばあちゃんに心配かけちゃったみたいで(笑)」

東さんは双子の息子を育てるシングルマザー。2人はいま、中学2年生だ。

腕1本くらい折られて来い!と送り出す子育て

東さんが息子と一緒に作った料理(家庭科の宿題)

最近、息子のひとりが部活を辞めた。チームメイトとの衝突が原因だったが、顧問や教師、相手の親との面会のため、東さんも学校に通った。

もちろん、親としての責任があるなら負う覚悟だった。しかし、子ども同士の問題であれば「やたらと大人が立ち入るべきじゃないのでは」と、東さんは面会の場で話した。

「いまは子どもだけじゃなくて親もね、意思表示する人が少ないんです。ああいう場所に出て、先生や親御さんに率直に、はっきり考えを伝えるなんて、変わり者だと思われてしまうみたいで……(笑)」

部活を辞めた息子も、東さんの血を色濃く受け継いでいる。彼は教師や先輩に対しても「自分の何が悪いんですか? 理由があるなら説明してください」と言えるそうだ。

将来有望なメンタリティにも思えるが、いまの中学校にあって「年齢や世代、立場を超えて自己主張をして、自分なりの筋を通そうとする彼は、良くも悪くも目立ってしまうんです」と東さんは話す。

「まあ私はね、息子に『どんどんやってきなさい!』って言ってます。だって、学校ってそういうところですよね? 違う考えや暮らしの人が集まって、話したりぶつかったりしながら、いろんなことを学ぶ場所じゃないですか。息子にしても、やたらと人を傷つけたり、片っ端からルールを破っているわけじゃない。

ただ、いつも本音を話し、集団に合わせない息子を、よく思わない人もいるはずです。もしかしたらイジメられたり、殴られたりするかもしれない。まぁでもね、それも彼の人生ですよ。『腕1本くらい折られて来い!』って育ててます(笑)」

双子ながら、もうひとりの息子は性格が全く異なるらしい。

「知的というかなんというか、ケータイやネットにも詳しくて、私には全然わからないことを、ひょいひょいって操作したり! もう無理ですね、とても追いつきません(笑)」

 

いつだったか……「子どもたちを自転車の前後に乗せて、お花見に出かけた」と話してくれましたよね。
ありましたねー。懐かしい。
ついこないだった気がするんですけど……もう、2人は中学生ですか!
背なんて私より大きいし、力も強いです! ちょっと言い合いになったら、体でぶつからないと負けちゃう(笑)
中学生の男子とぶつかり合えるだけで、すごいですよ(笑)
「なによ!」って肩からね、ボコーって当たるんです(笑)
負けないですね(笑)

 

ぶわーーーっと溢れ、強いられた1ヶ月の休業

エステティシャンの商売道具といえば「手」。およそ20年、東家の暮らしを支えてきた手のケアは、さぞかし念入りだろうと思いきや、「いやぁ、ぜんぜん! 考えたことなかったんです」と東さんは笑う。

「たまーにね、地元でバスケしてたんです。で、ときどき突き指。すーごい腫れて(笑)だからって、お客さまに『バスケで怪我して、仕事できません』なんて言えないじゃないですか(笑)整骨院で電気治療を受けて、でも痛いんですよ……痛いんで、泣きながら仕事してました!」

そうは言っても大怪我は一度もなく、「食材を切るスピードにも自信がありました」と笑う東さん。

「庖丁は速く切る! 速く動かす! シャーーーーって! いや別に……誰に急かされてたわけでもないんですけど、なぜでしょうね、スピードに命を賭けてました(笑)」

2017年の夏 ―― 東さんは好物の和え物を作るため、愛用のスライサーできゅうりを切っていた。自慢の高速カットの見せ場だ。サックサックサックサックサックサック「ザ」ック……痛っ!と思った瞬間、キッチンは血だらけ。きゅうりと一緒に、右手の薬指を切ってしまったのだ。

「すぐにね、傷口はくっつくと思ったんです。でも……病院で先生に見せたら『2、3週間はダメ。何にもしたらダメです』と、きつく言われて(笑)」

東さんが「手を使う仕事をしているので、何も出来ないのは困るんですが……」と言っても、担当医は「絶対に無理」と即答。予約は1ヶ月先まで入っていたから、予約客に謝罪の電話をかけ続け、とりあえず1週間ほど休んだ。

指の出血は止まり、痛みもやわらいだ。同業者に教わった特殊な傷テープも、つけてみたら心地がいい。このテープなら、貼ったまま客の肌を触っても、違和感や不快感を与えずに済む……東さんは「施術ができる」と思い、仕事に戻った。

復帰、初日の朝。客を部屋に通し、施術の準備にとりかかった。ガツン……っ。スチーマーの角にぶつかった。ぶつけたのは指先、テープを巻きつけた薬指の先だった。

「ぶわーーーっと溢れました! 血が(笑)」

なんの因果か、このときの客は医療従事者だった。

「東さん治ってないじゃない! 病院! すぐ行きなさい!」

叱られても言い訳は出来ない。東さんは「はい!」とだけ返事をし、流血が止まない指先を押さえながら病院に駆け込んだ。

「何やったの……?」と医者が聞く。
「いやぁ……ちょっと、ちょっと……動かそうとしただけなんですけど……」
「仕事でしょ! 仕事しようとしたでしょ!」

慣れない嘘は見破られた。結局、丸1ヶ月の休業を強いられた。

「いまでもきゅうりは大好きだし、スライサーも使います! でも、前後させる速度はそろーり……そろーり……、とてもゆっくりになりました(笑)」



意外とあちこち、ぶつかってるんですよね、人って……(笑)
それにしたって、手は……エステティシャンにとって手は命! なのでは……?
そうですねえ……怪我をして、さらに傷を酷くして、ようやく思い知りました(笑)当時は……他の収入のベースを作ったほうがいいかな?って考えましたし。
そこまで思いつめるほど、大きな出来事だったんですね!
この仕事をしてたら絶対に手の怪我ができないって分かりました(笑)

 

転機だった沖縄旅行

東さんが自分のサロンを開いたのは、2010年のこと。開店直後は営業を軌道に乗せるのに必死で、来るもの拒まずだったという。

「お客さまと話していて、『それは、ちょっと違うな』と感じる内容や、日ごろのケアをしないお客さまに、『そうですよねえ……』って調子を合わせてました。でも、だんだん疲れてきちゃって……『こんなの、私らしくないなぁ』と」

開店から3年が経った頃、東さんは友人家族との沖縄旅行を決めた。友人と一緒に通帳を作り、数年かけて貯金をした成果だった。

施術中、東さんは客に「夏休みはどうするの?」と聞かれた。

沖縄行きとその経緯を客に話したところ、思いもよらぬ反応があった。

「『へぇ……沖縄に行けるくらい、儲かってるんだ』って言われたんです。その言葉がなんとなく……すごく嫌で……でも、別のお客さまは、『沖縄?! 頑張ったね! 毎年旅行が出来るくらい、これからも頑張るんだよ』って励ましてくれて」

客の反応に傷つき、勇気付けられもした東さんは、当時をこう振り返る。

「いま思うと、当時は私がお店を始めてから数年、しかもシングルマザーだから『わたしが通ってあげなくっちゃ』っていう感覚のお客さまが……何人かいたんです」

苦労人への支援 ―― 聞こえはいいが、一歩間違えると差し出がましく、傲慢な態度かもしれない。

「その人たち、私が沖縄に行くと知ったら、ピタッと来なくなりました」

この後、東さんは「私は頑張ってる人を応援したり、一緒に頑張ろうって言える人で居よう」と心に誓い、接客も見直した。

東さんの3ヶ条
  1. 「キレイになりたい」と本気で思っている客と向き合う。
  2. 事実や本音を明確に伝える。
  3. 施術のコンセプトをしっかり説明し、『この内容でもよければ、またいらしてください』と伝える。

数人の常連を失ったが、大きなプラスがあった。

「心からキレイになりたいと思ってる人だけが、通ってくれるようになったんです」

実は東さん。開店から5年で営業が軌道に乗らなければ、市の補助制度を使い、看護学校に通うつもりだった。だが、それも杞憂に終わった。

「今のほうがずっと働きやすいし、やりがいがあります!」

 

東さん、看護師もピッタリな感じですよね。
自分でも……そう思います(笑)仕事内容的にも、似てるかもしれません。
人と話して、ケアして、ダメなことはダメって叱って?
そうそう!
東さんは、ビシッと言いますもんね(笑)
でもきっと、私が思ってるより大変なんです、看護の世界。中学のときヤンキーだった友人が看護師になったんですけど、彼女が「ねえ美晴! 聞いてよ! 同僚グループにイジメられてるんだけど!」って電話してきて。
ヤンキーやってた人が……!
「あたしがさあ、小生意気な年下にやられてんだよ!」って。あの気が強い子が……ってびっくりしました。
ひどい話ですね……イジメとか陰湿だし、いい大人が、なにやってんだよって感じですけどね。
そうですよね。ただ、たぶん看護師って、気が強くないと、やっていけないんだろうなって思います。

 

後半に続く

不審者の出現や息子さんの退部、転職が頭をよぎるほどの大怪我など、ともすると落ち込んでしまいそうな出来事を高らかに、明るい調子で聞かせてくれた東さん。

ご友人と実現させた沖縄旅行は、3年分のデトックスをするつもりが、思いがけない転機になったご様子 ――

経営者として、顧客の喪失はダメージだったはず。でも、東さんに暗い表情はなく「エステティシャンとしてのポリシーを見直し、あらたな経営を始めるきっかけになった」と振り返りました。

インタビュー後編は、東さんがエステティシャンを志した経緯や幾つもの偶然(ミラクル?)、そして人生を揺るがせたLOST経験が語られます。

「美ラクル! 2」東美晴

 

>>記事後編

 

店舗情報

東村山久米川・大人の美肌塾『Le Ciel』 〜ル・シエル〜

所在地
189-0013 東京都東村山市栄町2丁目30−10 グローリーハイム白百合301

電話番号
042-309-6486(施術中はお電話に出られない可能性があります)

メール
lecieleciel@gmail.com

営業時間
9:30〜18:00(最終受付/16:00、金曜日のみ18:00)

交通アクセス
西武新宿線「久米川駅」南口より徒歩3分

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