日常

「泡のように 1」鈴木真由美

ラジオ業界で働き、音楽活動を平行してきた鈴木真由美さん。「ある時点からは自分の思うとおりに実行し、生きてきた」と振り返ります。仕事や暮らし、音楽活動にインスピレーションがあれば即座に行動し、実現させれば新たなイメージが湧いたとか。しかし、とある災難をきっかけに暮らしは暗転。好きだった料理や家事、音楽製作はことごとく手に付かなくなり……LOSTの回想に紐解かれる鈴木さんのトラウマや音楽との距離感、そして人生観。第1部をお届けします。

プロフィール
鈴木真由美(Suzuki Mayumi)
東京都出身。電子音響バンド『oscillator』(オシレーター)では作詞・ボーカルを担当する。4歳からクラシックバレエを始め、武内正夫、江川明等に師事。10代後半からヨーロッパ、アメリカ、沖縄やアジアの離島などを旅し現在に至る。至福の時間は「美しいものを見て感じて食している時」。「それを誰かと、何かを共有し理解し合えていると感じられる瞬間。話すこともそうだし、ライブもそうだし、美味しいご飯を食べている時も」。

 

声のイントロ

 

ラジオの話

会うの久しぶりですよね。

2、3年ぶり……ですか?

黒川さんからLOSTの企画を聞いた時、思い出したことがあって。

どんなことですか?

TBSラジオで番組やってるうしろシティっていうお笑いの人たちがいるんだけど、コーナーに「ロスト」ってのがあって、ジャック・シェパードが主役の『LOST』ってテレビドラマ知ってる? 異様に警戒心が強いジャック・シェパードを「なぜそこまで警戒心が強くなっちゃったのか?」ってネタにするコーナーがあって、それを思い出しちゃって(笑)

気になります(笑)ラジオはやっぱり面白いですか?

面白いですね。落ち込んでる人は聞いた方がいいと思う。

SNSに象徴されるように、基本的に人って上手くいってる自分を伝えたがるんですよね。でも、ラジオはそこまでは上手くいってない自分を伝えても大丈夫なメディアなので。「自分は孤独じゃないし、むしろみんなそんなに変わらない」って思えるところがあって。

そうか、安堵感があるんですね。おすすめのラジオDJは?

アルコ&ピース

コンビ芸人の! 意識高くてチャラついたIT社長のコントとか(笑)

そうそう(笑)うしろシティのラジオも面白い。あとは神田松之丞さんかな。菊地成孔さんの番組とディレクターさんが同じなんですよね。

ディレクターさんの目の付け所がいいから、面白い番組が?

というか、菊地さんも神田松之丞さんも、もともとディレクターさんが確か個人的にファンで、そういう審美眼? と感覚が鋭い方なのだと思います。

ニコニコした感じでね、一見、いい人で優しい雰囲気を醸し出している方。でも、なんかね……とんでもない人だって、みんな思ってる(笑)いい人だし 絶対、でも、うまく言えないんだけど、ちょっと……何て言えばいいんだろうなー、物事を全然まっすぐから見てない感じで、鋭くて。でもニヤニヤしてる感じ?(笑)

Tさん。菊地さんの番組でも、名前がよく出てきたでしょ?

イジられてましたね、菊地さんに(笑)

ワイルドな時代

最近ね、いろんな経営者の方の本を読んだり聞いたりしてるんだけど、みなさん憂いは一切なくって。「令和は頑張りたいよね」っていう感じで。

前向きですね。

こういう時代って、明治維新以降なかったくらいの……戦後もそうだったろうけど、10年に1度、100年に1度? 経済とか社会の仕組みが大きく変わってる。そういう「ワイルドな時代に置かれてるって事、もっと楽しまないと」っていう方がいたり。

ワイルドな時代! なるほどー

ワイルドな時代に自分が生きて、自分の判断とか自分がやることによって、何かが起こる。クリエイティブな人ってこういう時こそ力を発揮する。

私は何となく平成が嫌いだったんだけど、クリエイティブな人を切り捨てててた時代の気がするし、なんとなく……システマティックに合理的に、何でもこう無駄、無駄、無駄っていうか………だんだんとお金に余裕が無くなって政府や民間企業が文化的なものや研究開発にお金を投資しなくなって行った時代という気がしていて。

誰かのせいでこうなった訳じゃないのかもしれないけれど、一番切り捨ててたらいけないものを切り捨てざるを得ない時代だったと思う。

でもこれからは違うんじゃないかな。違うと言うか、文化的なものやクリエイティビティの価値がさらに高まってくると思ってる。

MBA※って資格ありますよね? いま、アメリカではMBAよりも美術大学の修士を持っている人の方が社会的な評価が高いと聞いた事がある。
※MBA:Master of BusinessAdministrationの略称。日本では経営学修士号、または経営管理修士号と呼ばれる学位のこと。

そういえば、こないだEテレの『デザイン トークス+』で西陣織の若い社長が喋ってたんです。「いまMIT(マサチューセッツ工科大学)とコラボしてる」って。西陣織の技術なら、たとえば表からは透けて見えて、裏からだと透けない生地とか織れるらしいんですけど……

すごい(笑)

その西陣織の生地、ホテルのロビーに仕切りとして下げると、ロビーで寛いでる人からはホテル全体が見渡せて、空間の開放感も損なわれないのだけど、その外に居る人からはロビーの内部が見通せないから、ロビーにいる人たちのプライバシーは保たれる、感じらしくて。

すごいー(笑)

1000年以上の伝統※に培われた西陣織の技術と、MITで開発・研究されてる技術をかけあわせて製品を作ったり、あたらしいものを開発してるそうです。
※「西陣織の源流は、遠く古墳時代にまで求められます。5、6世紀頃、大陸からの渡来人である秦氏の一族が山城の国、つまり今の京都・太秦あたりに住みついて、養蚕と絹織物の技術を伝えたのです」西陣織工業組合 西陣会館から引用 

世界最高の伝統技術と世界最先端のサイエンスの融合ですね! とっても面白いものが生まれますよね。小さな民族の技術とかもいずれは無くなってしまうと言われているけれど、西陣織のようなやり方で残せたら、独自の文化をたとえ形が変わったとしても残していけるのではないでしょうか。

どこかの民族の技術だろうと、日本の田舎町の物作りの伝統だろうと、それぞれに替えが利かない固有の価値があるし。それをサイエンスと掛け合わせたり、独自のノウハウを保存して、さらに応用までできるようになったら……失っていくだけより、ずっと豊かなのでは、と思いました。

そうですよね。
お金の時代から、ひらめきの時代に変わると思っています。


なんか限界が来てるらしいですね、お金の時代は。その限界の後は創造性の方が必要らしい。「だったら任せとけ!」って感じじゃない?(笑) 

新しい天皇陛下のエピソードで、ちょっと感動したんだけど。大学で2年間オックスフォード大学に留学していらして、帰ってきたときの会見で「自分の頭で考え、自分の言葉で発することを学びました。」っていうようなことを仰っていて。
へえ、知らなかったです。そんな話をされてたんですね。
日本だけで生きていると、自分の頭で考え、自分の言葉で発することをしなくても生きていける人が多いじゃないですか?

でも、そういう方が天皇になられたのだから、自分の頭で考え、自分の言葉で発する事が基本にあるような、主体性を求められる時代になると思っています。

薄膜に透ける少女

今日のテーマはLOSTですよね? いきなり黒川さんから「インタビューをお願いします」って言われて、全然考える時間がなかった。「どうしようこれ、話せることあるかな……」って(笑)

なんでもいいんですよ(笑)失くし物とか、忘れ物とか、しないですか?

しないですね。そんなにはしないんです。もらった企画書には、そういう内容が書いてありましたよね。

3つ……4つ思いついたんですが。

おお、どんなことですか?

ひとつは父親を亡くしたことですね。

もうひとつは怪我して欝になって。8年前かな。いままで出来てたことが、突然何も出来なくなった事。

もうひとつは、自分の少女時代の少女性? 失ったとは言わないし、大切なんだけれど……。

かつてと同じではない?

完全に更新した感じはしますね。失ったのかなぁって感じはする。青春といったら変ですが……もっと若かった頃とか。少女時代との決別。決別っていうと少し違うんだけれど。LOSTといえば、思いつくの、それくらいかな。

お父様のことと、怪我と欝のこと、少女時代の少女性。

子供の頃って、自分がなかったというと違くて。あったんだろうけど、設定された環境のなかで生きていた時代というか。いまは自分の意思で、なんでも設定してると思うんですね。

赤ん坊は意思決定してない。両親や家庭は選べない……みたいな感じですか?

そうそう。もちろん子供の頃だって選択はできたんです。習いごとを選択したり。やりたいことをできたり。でも当時私を取り巻いていた環境は、あれはLOSTだなぁ。

選べたり、決めたりはできたけど、当時を振り返るとLOSTだったんですね。

LOSTですね。自分の人生じゃない、と思います(笑)私の意思っていうのとは違うある種の守られた世界だったのかな。いまは自分の責任でやれているし昔の自分とか、少女性みたいなものを思い出そうとすると、なんか記憶の膜がかかってるんですよね。

たとえばクラシックバレエだと「眠れる森の美女」とか「くるみ割り人形」のあるシーンみたいな? 実際の演出で舞台に薄い幕がかかってるのだけれど。絵本とか紙芝居の入り口の世界みたいな感じかな。

薄い幕がひとつかかってるだけで、「いま見ているこれは、今ある現実ではなく過去の、あるいはそれらを隔てる世界ですよ」という次元へ意識を持っていってくれる。そういう演出なんだけれど。そんな幕/膜が、過去の私の人生にはかかってる。

LOSTは泡

いまこうして話してる言葉も、生まれた傍から消えていくじゃないですか?

いま目の前にある言葉?

いま触れてる空気、言葉が、いま消えていく。でも、それに対してふつうは無意識だから。「失ってしまった」って、1秒1秒に対して、そんなこと思わないけど、ほんとは消失が繰り返されていて。

自分が「いままでこんなに出来てたのに、できなくなりました」とか。友人とか親とか、なくしたものが人だったり、物質だったり、仕組みだとかだと、すごい、「あーなくなった」って思うけど、実際には生まれては消えていくという事の繰り返しなのかな?と思うんですね。

音楽とかもそうじゃないですか? いまここにある音があるとして。でも、その瞬間に消えていくでしょう。

いま生まれて、なくなる。それは当たり前のことというか、いま私たちが話した言葉が、いま消えてった、っていう。でも、生活してて、いちいち思わないじゃないですか(笑)

日常生活のなかで、鈴木さんは、気に留めない? 

うん、思わないですね。けれども「LOSTって何ですか?」って聞かれれば、日々、毎秒がLOSTじゃないかって。あらゆるものは、生まれては消えていくものだと感じています。

LOSTだけに注目すると、さっき言ったみたいに喪失感みたいなイメージになるんだけど、そうではなくて。泡って生まれたらなくなるじゃない?「パン」ってはじけて跡かたもなく消えてしまう。LOSTってあれだと思っている。それらは一対なのではないか。そんな感覚がすごいあります。

泡が生まれて、はじけて消える。ワンセットだと思ってるから、ことさら悲しむ必要もない。

 

突然、なにも出来なくなって

いちばんLOST感があったのは、ちゃんと出来てた頃のことで。

バンドも仕事も生活もあらゆることが、タスクはものすごい量なのに、納得いく形でやれてしまう。そんな感覚って、ないですか? ずっとできてたんですよね、それが。

何年くらい続いてました?

わからないけれど。事故にあうまでかな。小さな頃から自己肯定感が低くてとても生きてる心地がしなかったのだけれど。20代の後半くらいからから、やっと自分を肯定できる状態になる事ができたんです。

ながい時間……ですね。

あれもこれも、それまで誰よりも悶々として答えがわからなかったから。それがわかったような気がしていたあの時は処理能力が高かったんです。他人より出来るってことじゃなくて、何でもテキパキやれたんですよね、あくまで自分の能力の範囲内でですが。

思いついたこと、全部やれないと気持ち悪いくらいの感覚だったんです。そういう自分に満足してたんだけど(笑)

それが……事故で変わった?

ある日突然、職場のロッカーの扉が後ろから倒れてきて※。当たり前のようにやってたこと、全部できなくなっちゃって……それが私の、一番のLOSTかな。
※ロッカーのサイズは約3メートル。鉄製の扉の金具が外れ、鈴木さんの背後から倒れてきた。

それはほんとに、苦しかったな。

こういう言い方するの、イヤなんだけど。ほんとに苦しくって、自分を責めた。あんなに自分を責めたことってなかった。

仕事も、人間関係も、バンドも何もかもできなくなっちゃって……最初から出来なかったなら、そんなに悔しくないんだろうけど、いつも自分の中での100%が出来てたのに、それがいきなり一割とかになっちゃったから。

事故で怪我をしたのが2011年?

そう。同じ年に震災※があって。うちもちょっと被災して。精神的にかなり混乱して辛くなり、そのあと……9月とか10月? 秋に職場で事故にあって、怪我をして。精神も肉体も底まで落ちてなにも出来なくなってしまった。
※東日本大震災。浦安にある鈴木さんの自宅は、最初の1週間、電気やガスが止まり、断水は1ヶ月続いた。

症状はむちうち……?

鞭打ちと、そのほか後遺症ですね。

体は動かなかったんですか?

毎朝、数時間は起き上がれなかったですね。ベッドで体を起こして、下まで降りるのに何時間もかかった。首とか腰とか。メンタルと体、両方やられて。「私終わったな」って思った(笑)

いや、さらっと「終わったって」っておっしゃいますが……そうそう口から出る言葉じゃないと思います。

震災のダメージもあって。うちは家が潰れたり、土地を失ったわけでもないし、偉そうなことは言えないんだけど。私にとってはきつかったから……ただ、人の苦しみを考える、きっかけになったんじゃないかな。

それまでも考えてはいたと思うけど、私自身の苦しさの次元が違ったんですね。事故に巻き込まれたり、怪我をしたりしたら、体もメンタルも、こんなにきついんだって。

夢でね。地獄に落ちて、屍みたいなのがたくさん落ちてるところにいて、なにかから必死で逃げまくってるのに逃げられない……みたいな。その状態で、さらに体も痛いバージョンで。地獄絵図的な(笑)ベッドの上で、ずっとそんな感じだった。

このお話しを読み返して、ミルトンの『失楽園』を思い出しました。
失楽園? どんな話し?
天使のルシファーが地上に堕ちるんです。
そうなんだ。私は怪我をしてから、いろんなことが辛くなってしまって……

後半に続く

「ワイルドな時代」の幕開けに、お話しを聞かせてくれた鈴木さん。

時代や社会、少女性など、捉えがたい抽象的・感覚的なテーマに対し、ひるむことなく向き合い、できるだけ率直に語ろうとする姿がありました。

話題がLOSTに及ぶと、わずかに沈黙。
そして「3つ……4つ思いついた」と顔を上げました。

テーマは父の死、怪我と欝、少女性 ――

なかでも仕事中の大怪我は、人生そのものを揺るがしたそうです。

インタビュー後半は、お話しの核心に迫ります。

「泡のように 2」鈴木真由美 ラジオ業界で働く鈴木真由美さん。ながく音楽活動やバレエを続け、料理の腕もピカイチ。20代中盤からの人生を「自分の思った通りに生きる事...
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